日本は日本脳炎汚染国です。アメリカ小児科学会では日本に旅行する人は、是非接種すべきワクチンとして日本脳炎ワクチンがあげられています。欧米の人にとっては日本人以上に恐れられている病気です。

日本脳炎とは

日本脳炎は日本脳炎ウイルスの感染でおこります。ヒトから直接ではなくブタの中で増えたウイルスが蚊(カ)によって媒介されます。7〜10日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、嘔吐(おうと)、意識障害、けいれんなどの症状を示す急性脳炎になります。
流行は西日本地域が中心になりますが、ウイルスは北海道など一部を除く日本全体に分布しています。この地域で飼育されているブタでの流行は毎年6月からはじまり10月まで続きますが、この間に80%以上のブタが感染しています。好発年齢は60歳を中心とした成人と5歳未満の幼児です。以前には小児、学童に好発していましたが、予防接種の普及で減っているものと思われます。
感染者のうち1000〜5000人に1人が脳炎を発症します。脳炎のほか無菌性髄膜炎や夏かぜ様の症状で終わる人もあります。脳炎にかかった時の死亡率は約15%ですが、神経の後遺症を残す人が約50%あります。ぜひ予防接種を受けておきましょう。
また最近話題になっているウェストナイル熱と関連して、日本脳炎ウイルスに対する免疫は、ウェストナイルウイルスの感染防御に有効であることが、チンパンジーなどの感染実験で確認されている、という報告からもより積極的にワクチンを接種すべきでしょう。

日本脳炎ワクチンの副作用について

しかし、平成17年5月厚生労働省は現在使用中の日本脳炎ワクチンは急性散在性脳脊髄炎(ADEMアデム)をおこすので積極的には推奨しないワクチンとする、とし混乱を生じています。以下にその内容を引用します。

急性散在性脳脊髄炎(ADEMアデム)について
厚生労働省健康局結核感染症課 日本脳炎ワクチン接種の積極的推奨差し控えQ&Aより引用
Q:ADEM(アデム、急性散在性脳脊髄炎)とは、どのような病気ですか?
A:ある種のウイルスの感染後あるいはワクチン接種後に、稀に発生する脳神経系の病気です。ワクチン接種後の場合は、通常接種後数日から2週間程度で発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の症状があらわれます。ステロイド剤などの治療により完全に回復する例が多く、良性の疾患とされていまが、運動障害など神経系の後遺症が10%程度あるといわれています。麻疹(はしか)、水痘(みずぼうそう)、ムンプス(おたふくかぜ)、インフルエンザなどのウイルスやマイコプラズマなどの感染後にみられ、病原体感染の後におこることもあるといわれています。ワクチン接種は毎年たくさんの子どもにおこなわれるので、ワクチン後にADEMがみられた場合は、ワクチン接種によるものとウイルスなどの病原体の感染によるもの、あるいは原因不明のものとの区別が困難です。現在の日本脳炎ワクチンは、製造の過程で微量ながらマウスの脳組織成分が混入する可能性があり、この成分によってADEMが起こる可能性が否定できないとされています。
Q:日本脳炎ワクチンを接種したことによるADEMの副反応は、どれくらいあるのですか?
A:予防接種後にADEMがみられたとして、因果関係は明らかでないまま予防接種副反応報告に報告された例は平成6年度から現在までに21件みられます。予防接種後にみられたADEMの患者さんで、予防接種法に基づく健康被害救済制度の認定を受けた方の数は、平成元年度から平成17年5月までで14件です。
Q:日本脳炎ワクチンを接種することによって、ADEM以外に、どのような副反応が起こりますか?
A:まれに接種後直後から翌日に、発疹(ほっしん)、じんましん、そう痒(かゆみ)等の過敏症がみられることがあります。 また、全身症状としては、発熱、悪寒(さむけ)、頭痛、倦怠感(けんたいかん)、はきけなど、接種部位の局所症状としては、発赤、腫れ、痛みなどが認められることがありますが、通常は2〜3日中に消失します。

今回の積極勧奨差し控え措置について
Q:定期予防接種として、日本脳炎ワクチンの積極的な推奨を差し控えた理由はなんですか?
A:マウスの脳を用いた現在の日本脳炎ワクチンとそれを接種した後の重症ADEM発生との因果関係があるとの判断が下されたことから、現時点ではより慎重を期するため、定期予防接種として現行の日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨は行わないよう、各市町村に対し勧告を行ったものです。

Q:日本脳炎の予防接種を受けたのですが、ADEMにかかる心配ないのでしょうか?
A:日本脳炎ワクチンの副反応としてのADEMは、70―200万回の接種に1回程度、きわめてまれに発生すると考えられています。万が一発症しても通常は軽快し、その後の再発はみられません。予防接種によると考えられるADEMでは、通常、ワクチン接種後数日から2週間程度の間に発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の症状があらわれます。症状が疑われる場合には、医療機関において医師の診察を受けてください。接種をうけても症状のない場合は、健康診断や検査を受ける必要はありません。

Q:万が一、重い副反応が起こったら補償はありますか? 予防接種が原因と特定されなければ補償されないのでしょうか?
A:予防接種法に基づく予防接種により疾病、障害、死亡等の健康被害を生じた場合には、被害者に対して予防接種健康被害救済制度によって、医療費の支給、障害年金の支給等を行うこととなります。なお、救済制度の対象となる健康被害は、厚生労働大臣が予防接種との因果関係を認定したものに限ります。

Q:今回の措置により、日本脳炎が流行することはありませんか?
A:日本脳炎の感染源は日本脳炎ウイルスを媒介する蚊ですが、媒介蚊に刺されたからといって必ずしも発病するものでもありません。また、わが国では1970年代以降患者数は著しく減少しましたが、その理由としては予防接種の普及の他に、蚊のウイルス保有率の減少、環境改善による蚊に刺される機会の減少など複数の要因の組み合わせの結果と考えられています。そのために国内の多くの地域では、予防接種を行わなくても直ちに流行する機会は著しく減少していると考えられます。また、すでに予防接種をうけている年齢層では、ある程度の免疫を持っていると考えられます。これらのことから、本年予防接種をうけるべき年齢の方が予防接種をうけなくても、日本脳炎に感染し発症する機会は極めてまれと考えられます。ただし、一般的な注意として戸外へ出かけるときには、念のためできる限り長袖、長ズボンを身につけるなど、ウイルスを持った蚊に刺されないよう十分な注意をすることをお勧めします。

今後の日本脳炎予防接種と新ワクチンに関して
Q:組織培養法による新しい日本脳炎ワクチンは、よりリスクが低いものと期待されているそうですが、本当なのですか?
A:組織培養法によるワクチンとは、試験管内で培養したヒトや動物の組織・細胞でウイルスを増殖させるため、不純物が混入する可能性は低く、リスクはより低いものと考えられています。

Q:新しい日本脳炎ワクチン(細胞培養ワクチン)ではADEMは発生しないのでしょうか?
A:組織培養法によるワクチンとは、試験管内で培養したヒトや動物の組織・細胞でウイルスを増殖させるため、理論的には接種後のマウス脳成分による問題が起こる可能性はなくなります。

Q:組織培養法による日本脳炎のワクチンが承認されるまで、日本脳炎の予防接種は受けられないのでしょうか?
A:日本脳炎の流行地域へ渡航する者、蚊に刺されやすい環境にある者など、日本脳炎に感染するおそれが高い場合などで、本人又は保護者が特に希望する場合には、今回の措置と日本脳炎ワクチンの効果及副作用を医師から説明を受け、同意書に署名した上で現行の日本脳炎ワクチンの接種を受けることは差し支えありません。

Q:東南アジア諸国等日本脳炎の汚染地域に旅行する場合は、予防接種を受けるべきですか?
A:日本脳炎の流行地域(朝鮮半島、台湾、中国、ベトナムなど)へ渡航するなど、日本脳炎に感染するおそれが高い場合には、今回の措置並びに日本脳炎ワクチンの効果及副作用を医師から説明を受け、同意書に署名した上で現行の日本脳炎ワクチンの接種を行うことは差し支えありません。日本脳炎ワクチンの接種は海外渡航の際に義務付けられてはいませんが、状況によっては推奨している国もあります。最寄りの検疫所や医療機関でよく相談の上自らの判断で行ってください。
厚生労働省健康局結核感染症課

日本脳炎予防接種の最新情報

日本脳炎の幼児期の予防接種は中止されているわけではありません。正確には予防接種と急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の関連性が疑われたため、行政として積極的に接種を勧めることはしない、というものです。しかしこれをおおげさにとらえ都区内、市町村の一部の行政では、よほどの理由がなければ接種しない、としてしまいました。

ところが平成18年12月には東京小児科医会より以下の勧告がだされるにいたりました。

現在、日本脳炎ワクチンは約100万人に1人の割合でADEM(急性散在性脳脊髄炎)の発生が危惧されることから、よりリスクの低いワクチンが開発されるまでの間、現在のマウス脳由来の日本脳炎ワクチンの積極的な勧奨が一時差し控えられています。しかし、新しい製造法によるワクチンの認可の明確なめどはたっておりません。このような状況が長引けば、免疫のないこどもたちや免疫が低下した高齢者は日本脳炎発症の危険性が高くなることから、基礎免疫をつけ、追加免疫により日本脳炎を予防することが必要です。3才以上になられましたら日本脳炎ワクチンを接種することを是非お薦めします。

平成21年2月現在の情報では改良されたワクチンの認可が5月頃におり7月ごろから新ワクチンの利用が可能になるとのことです。具体的な日程については今後の情報にご注意ください。

新しい日本脳炎ワクチンの使用開始について

新しい日本脳炎ワクチンの使用ができるようになりました。ジェービックVといいます。従来のワクチンはマウス脳由来でADEM(急性散在性脳脊髄炎)との関連が否定できないため、行政が接種の勧奨を止めていました。あたらしいものは培養細胞由来のものでこの危険性を排除したものです。当然チメロサールは含まれていません。

生産本数がまだ少なく希望者にすべて接種はできません。また行政も十分な供給体制が整うまで、接種のすすめはおこないません。このような状況から7歳6ヵ月までに基礎接種を行わなければならない、6歳から7歳のかたが当面の優先接種対象者となります。早めの予約をお願いします。